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リスクマネジメント 潜在化リスクと顕在化リスク

リスクと聞いて皆様はどんなイメージをお持ちでしょうか?多くは危険にさらされるなどのマイナスなイメージだと思います。弊所は保険代理店も併設している関係上、リスクに対して非常に密接に関係しており、リスクマネジメントという手法を使って企業の問題解決のお手伝いをしています。実際日本ではリスクマネジメントという言葉が使われ始めたのは1995年の阪神淡路大震災からと言われています。今回はリスクという大きな概念を見ていきたいと思います。


🔴リスクとは

辞書では「危険」「危険度」「予想したとおりにうまくいかない可能性」「失敗したり損をしたりする危険」という表記があります。まさにその通りなのですが、弊所での定義では「ある行動に伴って(あるいは行動しないことによって)、危険に遭う可能性や損をする可能性。不確実性」としています。危険や損をするというだけではなく、将来的な不確定要素も考慮した認識です。

🔵潜在化リスクと顕在化リスク

簡単に言うと、見えている部分(顕在)と見えていない部分(潜在)です。事業活動を例にとってみると

潜在化リスクは起きるかも知れないし、起きないかもしれないが、顕在化する前に対策を打つことが重要。


🔴ハインリッヒの法則

アメリカの損害保険会社の安全技師であったハインリッヒが発表した法則です。「同じ人間が起こした330件の災害のうち、1件は重い災害(死亡や手足の切断等の大事故のみではない。)があったとすると、29回の軽傷(応急手当だけですむかすり傷)、傷害のない事故(傷害や物損の可能性があるもの)を300回起こしている。」というもので、300回の無傷害事故の背後には数千の不安全行動や不安全状態があることも指摘しています。また、ハインリッヒは、この比率について、鉄骨の組立と事務員では自ずから異なっているとも言っていますが、比率の数字そのものではなく、事故と災害の関係を示す法則としては、現在も十分に活用できる考え方です。

出所:厚生労働省「ハインリッヒの法則

1件の重大事故の背景には、29件の小さな事故と、300件の事故に至らない危険な状態がある

企業経営にとって、また日常生活においても、1件の重大な事故で会社が倒産した・人生が変わってしまったというような事があります。これは誰にでも起こりえる事で、それがたまたま小さな事故で済んだ、事故に至らない危険な状態で助かったというケースは少なくありません。重要なことはどんな危険(リスク)があるかを認識し、どのように回避するか、対策するか、放置しておくかを主体的に「決定」することです。人間は都合の良いもので、顕在化リスク(目に見えて危険だと思える事)には対策しようとしますが、潜在化リスク(危険を認識していない・危険だと考えたくない)に対しては、すぐに必要ない・うちに限っては大丈夫として対策しないケースも多く見られます。重大な事故や事象が起こってからではどうしようもない場合が多くあります。

🔵私の事例

20年ほど前にはなりますが、連日深夜までの仕事疲れで居眠りをしてしまい民家の壁に追突したことがあります。幸いにも怪我人がおらず壁の修理だけで済みましたが、これが歩行者の列などに追突したと考えれば、ニュースで取り上げられるような重大な事故につながっていた可能性も大いにあります。それ以来、疲れているときは車を運転しないことで不注意や不安全行動のリスクを抑えています。また経営陣は従業員の安全配慮も大切な仕事ですので、ハザード(危険や危険要因)の特定などリスクに対してしっかりと検討する必要があります。


🔴リスクへの対策

リスクの対策方法としては、大きく分けて4つのセクションがあります。

🔵ISO31000によるリスクのプロセス

リスクマネジメント規格の変遷


🔴企業を取り巻くリスクの一例

リスクの中でも、PL事故や粉飾決算など企業のガバナンスや意識の向上で防げるリスクもあれば、国際紛争や為替変動など一企業の影響力ではどうしようもないリスクもあります。ただそのようなリスクであっても被害を最小限に食い止めるような施策を打つか打たないかは企業の裁量になります。今回話題になっているトランプ関税に関しても、日本の自動車メーカーへの影響は様々で、アメリカに工場や拠点を多く持っているメーカーより持っていない・または少ないメーカーの方が予想される影響は深刻です。

アメリカで販売した車のメーカー別内訳

出所:NHK「トランプ氏 25%の自動車関税署名 日本車も対象 国内影響は?


🔴サプライチェーンにおける企業のリスク

企業は一企業単体で動いていることは少なく、サプライチェーン(供給連鎖)という枠組みの中で「製品の原材料調達から製造、物流、販売、消費」の一翼を担っていることがほとんどだと思います。

その中で近年大きなリスクとなっているのが人権によるリスクです。人権問題が発生してしまうと、大企業であっても大きな経済的損失や企業イメージの失墜は免れません。

🔵最近大きく報道された人権問題

フジテレビ

女性社員へのハラスメント問題が大きく報道されました。大企業だけに、しっかりとした人権方針が策定されていますが、実際は機能していなかったことが浮き彫りになりました。

フジ・メディア・ホールディングス グループ人権方針

ジャニーズ事務所(現:SMILE-UP.)

創業者の長年にわたる性加害行為が問題になりました。芸能界における人権意識の欠如が明らかになり、事務所の存続にまで発展しました。

株式会社SMILE-UP. グループ人権方針

ユニクロ(ファーストリテイリング)

男性用シャツが、ウイグル人への強制労働が疑われている中国の新疆ウイグル自治区の綿花で製造された可能性があるとして、同年1月にアメリカへの輸入が差し止められました。

ファーストリテイリンググループ人権方針

アップル社・テスラ社など5社

スマートフォンや電気自動車に広く使われているリチウムイオン電池の材料であるコバルトの採掘に関して、6歳前後の子どもを含む14人の子どもたちが、死や負傷に至る長時間労働に従事させられていたとの報告があり、コンゴ民主共和国での児童労働を助長しているとして、人権団体によって訴訟を起こされました。

アップル 人権に関するポリシー

テスラ 人権方針

メーカーを中心としたサプライチェーンでは、問題が発生することで他の企業にも影響を及ぼし、最悪の場合にはサプライチェーンからの離脱もありえます。


🔴人権DDの必要性

・DD(デューディリジェンス)とは、辞書で引くと「相当・適切・正当な注意や配慮」とあります。 これを人権に当てはめると、人権に対して適切で正当な配慮をしなさい、というメッセージになります。ヨーロッパでは16世紀以降に始まった奴隷制度が19世紀になると人道的な立場からの批判に繋がり、イギリスでは1833年に奴隷制度が廃止され、アメリカではリンカーンによる奴隷解放宣言が1863年に行われました。

・近年、奴隷制度まではいかないまでも、労働者の人権に対して適切で正当でない配慮が行われていないとの観点から、ヨーロッパやアメリカで人権に対してもう一度考え直そう、明文化しようとの動きが強まり法整備が進んでいます。日本でも、欧米に遅れつつありますが人権DDに対して、働き方改革など人権を尊重した動きが強まってきています。サスティナビリティ(持続可能性)を含めた、企業のあり方が問われ始めてきています。

🔵世界各国の法整備や取組み

2011年 国連にて世界全体で取り組むべき行動指針「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択されました」

2015年 イギリスで「現代奴隷法」が成立。奴隷労働と人身取引についての開示を義務化

2017年 フランスで「注意義務法」が成立。人権DD・環境DDへの開示を義務化。

2018年 EUで「非財務情報開示指令」を発表。人権DD・環境DDへの開示を義務化。

2019年 オーストラリアで「現代奴隷法」が成立。奴隷労働と人身取引についての開示を義務化

2021年 ノルウェーで「人権DD法」が成立。人権DDの開示を義務化。

2022年 アメリカで「ウイグル強制労働防止法」が成立。中国ウイグル自治区の製品の輸入を禁止。

2022年 オランダで「児童労働注意義務法」が成立。児童労働DDを義務化。

2023年 ドイツで「サプライチェーンDD法」が成立。人権DD・環境DDへの遵守を義務化。

2024年 EUで「企業サステナビリティデューデリジェンスに関する指令(CSDDD)」を採択。

世界中で人権に対するデューデリジェンスを開示・遵守する動きが高まってきています。

日本でも2020年に、企業活動における人権尊重の促進を図るため、「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020ー2025)」が策定されました。

2022年には、「責任あるサプライチェーン等における 人権尊重のためのガイドライン」を日本政府のガイドラインとして決定しました

出典:外務省「ビジネスと人権

🔵企業が配慮すべき主要な人権リスク26種類

経済産業省「人権デュー・ディリジェンスの実務例

大阪法務局「最近よく聞く「ビジネスと人権」や「人権デュー・ディリジェンス(人権DD)」ってなに?


最も成功する危機管理・リスク管理は、危機に陥らないこと

今回はリスクとリスクマネジメントについて見てきました。ゴルフに例えると、危機(ラフやバンカー)を乗り越え無事目的地(カップ)に到着するよりも、危険を避けて(フェアウェイにボールを置き)何事もなかったように無事目的地に到着する方がベストで、前者はセカンドベストだと言えます(スポーツではそれが楽しいかも知れませんが)。企業のリスクマネジメントでも、リスクを事前に察知し、対策を打ち、リスクを「回避」しながら経営計画を進めて行くのが最も重要になります。

言うは易く行うは難し

実際に運用していくのは相当な覚悟と労力が必要とされますが、PDCAを回すのに最初から完璧に行うのは難しいのと同じで、まずは現状のリスクを「主体的に」精査し、方針を決定していく事が重要だと感じます。重大な事故が起こってからでは対策の施しようがなく、最悪の場合、企業の存続にも関わってくるのですから。

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