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賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和5年)が発表されました

例年行われている「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果」が厚生労働省から発表されました。

最近は、働き方改革などの影響もあり適正な賃金を支払っている企業が増え、以前のような1事業所で割増賃金が何千万円などという案件は少なくなってきています。以前の記事(厚労省が「書類送検」対象の事業場拡大 企業が気をつけたいことでもお伝えしましたが、労働基準監督署も賃金不払事案の解消に向け監督指導等を強化しており、対象となる件数は大幅に増えています。


🔴賃金不払残業とは

「所定労働時間外に労働時間の一部又は全部に対して賃金又は割増賃金を支払うことなく労働を行わせること」であり、労働基準法違反です。

🔵労使が取り組むべき事項
労働時間適正把握ガイドラインの遵守

労働時間を適正に把握するためには、労働時間の考え方を再確認する必要があります。

※労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は「黙示の指示」により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たります

職場風土の改革

職場の中に賃金不払残業が存在することはやむを得ないとの労使双方の意識を変える

経営トップ自らによる「決意表明」、社内巡視等による「実態の把握」などにより、労使双方が賃金不払残業をしない・させないという意識の改革が必要です

適正に労働時間の管理を行うためのシステムの整備

始業及び終業時刻の確認及び記録は、使用者自らの現認又はタイムカード、ICカード等の「客観的な記録」によることが原則であって、自己申告制によるのはやむを得ない場合に限られるものであることに留意する必要があります

労働時間を適正に把握するための責任体制の明確化とチェック体制の整備

労働時間の管理の責任者を明確にしておく、上司や人事労務管理担当者以外の相談窓口の設置など、賃金不払残業の実態を積極的に把握する体制を確立することが重要です

出所:厚生労働省「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針


🔴令和5年度の監督指導結果

賃金1

🔵業種の内訳

賃金2


🔴過去10年の監督指導結果

賃金3

※令和3年までは、支払額が1企業で合計100万円以上のみの集計となります


🔴送検事例

労働基準監督署は通常、行政指導により企業を是正指導しますが、「重大悪質」と判断した場合などは刑事事件に切りかえて司法処分とするケースがあります。

事例①「総額1,000万円を超える定期賃金を支払わなかった疑い」

労働者から、長期間定期賃金が未払いであるとの相談を端緒に労働基準監督署が立入調査を実施し、1年以上に渡り定期賃金の全額を各所定支払日に支払っていなかったことから是正勧告したものの、支払いがなされなかったため、捜査に着手。捜査の結果、短時間労働者7名に対し、14か月から16か月に渡り、定期賃金の全額(合計約1,080万円)を各所定支払日に支払っていなかった疑いで、書類送検を行った。


事例②「時間外・休日労働に係る割増賃金を支払わなかった疑い」

技能実習生からの賃金不払残業の相談を端緒に調査したところ、時間外・休日労働に対する割増賃金の一部不払いを確認したため、捜査に着手。捜査の結果、使用者は、外国人技能実習機構(※)などが行う監査時に指導を受けるおそれがあるため、技能実習生5名の実際の時間外・休日労働時間数を過小に偽装し、その少ない時間数に基づいて、割増賃金を支払っていたことが判明。割増賃金の一部不払い(合計約330万円)の疑いで、書類送検を行った。


事例③「月20時間を超える時間外割増賃金を支払わなかった疑い」

事務所に勤務する労働者が職場トイレで縊死したのは、上司によるパワハラや長時間労働などが原因であるとして、遺族から労災請求がなされた。捜査の結果、事務所が時間外労働の把握のために使用していた「勤務記録書」上の労働時間と、業務で使用していたPCの使用記録との間に、大幅な乖離があることが確認された。さらに、事務所では、時間外割増賃金を支払う上限を月20時間までとする制度を運用。一方PC等の記録等の分析では、毎月50時間~80時間程度の時間外労働を行っている実態が確認されたが、月々の時間外割増賃金は一律20時間分にカットして支払っていたため、時間外割増賃金の一部不払いが疑われた。


事例④「時間外割増賃金を支払わず、監督官に虚偽の陳述をした疑い」

外国人労働者から違法な時間外労働などの申告があり申告監督を実施するも、タイムカードや賃金台帳の記載では、申告内容どおりの就労実態はなく、不自然な点が窺えた。捜査の結果、外国人労働者3名に対し、36協定による限度時間を超えて、月に113時間から123時間の時間外・休日労働の実態があり、時間外・休日労働の割増賃金約300万円を所定期日に支払っていないことが疑われた。さらに、前回の監督指導でも同様の実態があり、繰り返し違反が疑われた。また、事業主は、臨検した労働基準監督官に対し、労働時間の内容など虚偽の陳述をし、虚偽の内容を記載したタイムカードや賃金台帳を提出していたことが疑われた。


🔴監督指導による是正事例

送検までには至らなかったが、行政からの指導を受け是正した事例

事例①「食料品製造業」

時間外労働を行っているにもかかわらず36協定届が未届であるとの情報を受け、労働基準監督署が立入調査を実施したところ以下の実態が認められた。

◆月60時間を超える時間外労働に対して、法定の割増率(50%以上)を下回る割増率で計算されていた。

◆割増賃金の基礎として算入すべき賃金(役職手当、精勤手当等)を除外して割増賃金が計算されていた。

◆一部の労働者に対して固定残業代として、月40時間分の割増賃金が支払われていたが、40時間を超過した時間については割増賃金が支払われていなかった。

<労働基準監督署の指導>

◆月60時間を超える時間外労働に対して、法定の割増率(50%以上)で計算して、支払うこと。

◆割増賃金の基礎として算入しなければならない賃金を全て足し上げた上で、割増賃金を再計算し、実際の支払額との差額を支払うこと。

◆月40時間を超える時間外労働に対する割増賃金を再計算し、固定残業代として支払った割増賃金額との差額を支払うこと。

<事業場の対応>

過去に遡って正しい単価で割増賃金を再計算し、不足が生じていた労働者に対して、追加で差額の割増賃金を支払った。


事例②「飲食業」

過重労働による労災請求がなされたことを受け、労働基準監督署が立入調査を実施したところ以下の実態が認められた。

◆労働時間は、勤怠システムにより管理を行っているが、当該システムに搭載された端数処理機能を用いて、日ごとの始業・終業時刻のうち15分未満は切り捨て、休憩時間のうち15分未満は15分に切り上げる処理が行われていた。

◆また、着用が義務付けられている制服への着替えの時間を、労働時間としていなかった。

<労働基準監督署の指導>

◆労働時間を適正に把握するための具体的方策を検討・実施すること。

◆過去に遡って、労働時間の状況について労働者に事実関係の聞き取りを行うなど、実態調査を行い、実際の支払額との差額の割増賃金の支払いが必要になる場合は、追加で支払うこと。

<事業場の対応>

◆労働者へのヒアリングを行って、正しい労働時間数を把握し、再計算の上、差額の割増賃金を支払った。

<実施した取り組み>

①勤怠システムに搭載された端数処理機能の設定を見直し、始業・終業時刻の切り捨て、休憩時間の切り上げ処理をやめ、1分単位で労働時間を管理することとした。

②制服への着替えの時間を、労働時間とすることとした。


事例③「機械器具製造業」

◆「タイムカード等がなく、労働時間が適正に把握されていない。」との情報を基に、労基署が監督指導を実施。

◆労働時間は、労働者自身が始業・終業時刻等をパソコンに入力する方法(自己申告制)により把握していた。

<労働基準監督署の指導>

◆パソコンの使用記録や製造機械の作業記録と自己申告で残業時間として申請された時間に乖離が認められたため、労働時間の過少申告の原因究明と、不払となっている割増賃金を支払うよう指導。

<事業場の対応>

◆パソコンの使用記録や製造機械の作業記録、労働者からのヒアリングなどを基に乖離の原因や割増賃金の不払の有無について調査を行い、不払となっていた割増賃金を支払った。

<実施した取り組み>

①労働者自身が労働時間を入力する方法(自己申告制)を廃止し、勤怠管理システムを導入することにより適正に始業・終業時刻を記録、適正に割増賃金を支払うこととした。

②労働者に対して時間外労働を行った場合には全て申請するよう説明を行い、賃金不払残業を発生させない環境を整備した。

③企業風土改革や人事制度改革等を検討するプロジェクトチームを立ち上げ、時間外労働の削減を含めた対策を行うこととした。


事例④「卸売業」

◆「一定の時刻以降の残業時間に対する残業代が支払われない」との情報を基に、労基署が監督指導を実施。

◆労働時間は、出退勤時刻を勤怠システム、残業時間は自己申告により把握していた。

<労働基準監督署の指導>

◆勤怠システムによる出退勤時刻の記録と自己申告により残業時間として申請された時間に乖離が認められたため、出退勤時刻と残業の申請時間との乖離の原因及び不払となっている割増賃金の有無について調査を行い、不払が生じている場合には割増賃金を支払うよう指導。

<事業場の対応>

◆勤怠システムによる出退勤時刻、労働者へのヒアリングなどを基に乖離の原因や割増賃金の不払の有無について調査を行い、不払いとなっていた割増賃金を支払った。

<実施した取り組み>

①適正な労働時間の記録について社内教育を徹底するとともに、必要な残業が発生した場合にはきちんと申告するよう労働者に説明を行い、賃金不払残業を発生させない環境を整備した。

②定期的に人事担当部署において、出退勤時刻と残業申請に乖離がないか毎日確認し、乖離があった場合には労働者本人にヒアリングをする体制を整備した。


事例⑤「教育研究業」

◆労働条件・安全管理体制等の状況を確認すべく、労基署が私立学校に監督指導を実施。

◆出勤簿による押印のみで労働時間が全く把握されていなかった。また、使用者の指揮命令下で行われていた部活動等の業務をボランティアとし、労働時間として扱っていなかった。

<労働基準監督署の指導>

◆固定残業代として基本給の4%にあたる「教職調整手当」を支払っていたが、労働時間を把握しておらず、実際支払うべき割増賃金に対して不足している可能性があるため、不払となっている割増賃金の有無について調査を行い、不足が生じている場合には割増賃金を支払うよう指導。

<事業場の対応>

◆労働者へのヒアリングなどを基に不払が生じている労働時間数について調査を行い、部活動の時間も含め不払となっていた割増賃金を支払った。

<実施した取り組み>

①出勤簿による管理を廃止し、勤怠管理システムを導入し適正に始業・終業時間を記録することにより、適切に割増賃金を支払うこととした。

②使用者の指揮命令下で行われたにもかかわらず労働時間として取り扱っていなかった業務について、労働時間として適正に取り扱うこととした。

③管理者が労働者に対し、労働時間の管理等が不適切であった現状を説明し、労使一丸となり適正な労働時間の管理を行う重要性について認識を共有した。


事例⑥「建設業」

◆「一定時間以上の残業時間に対する残業代が支払われない」との情報を基に、労基署が監督指導を実施。

◆労働時間は、出退勤時間を勤怠システム、残業時間を残業申請書により把握していた。

<労働基準監督署の指導>

♦残業申請書において残業時間として申請されていない時間に、パソコンを使用した記録が残されていた。また、勤怠システムの退勤時刻の記録と施設警備システムに記録された時間に乖離が認められたため、労働時間記録とパソコンの使用記録等との乖離の原因及び不払となっている割増賃金の有無について調査を行い、不払が生じている場合には割増賃金を支払うよう指導。

<事業場の対応>

◆パソコンの使用記録や施設の警備システム記録、労働者へのヒアリングなどを基に乖離の原因や割増賃金の不払の有無について調査を行い、不払となっていた割増賃金を支払った。

<実施した取り組み>

①賃金不払残業が発生した1つの要因として、残業時間が長くなると個人の評価に影響があると考え、残業時間を過小に申告していたことが実態調査において判明した。そのため、適正な労働時間管理に関することを人事評価の項目として新しく設けることや管理者が労働者に労働時間を正しく記録することについて継続的に指導を実施し、労働時間を適正に記録する意識の醸成を行った。

②専属で勤怠管理を行う者を配置し、勤怠記録に乖離がないか逐一確認出来る体制を整備した。


事例⑦「保健衛生業」

◆「時間外労働を行った時間について申請させてもらえず、割増賃金が不払となっている」との情報を基に、労基署が監督指導を実施。

◆労働時間は、勤怠システムにより把握していたが、勤怠記録と施設の警備記録との間に大きな乖離が確認された。

<労働基準監督署の指導>

♦労働者からの聴き取り調査において、企業全体で残業時間を過少申告する風潮があることや、管理者による勤怠システムの改ざんの疑いが確認できたため、勤怠記録と警備記録との間の乖離の原因究明や労働時間の過小申告等より不払となっている割増賃金を支払うよう指導。

<事業場の対応>

◆施設の警備システムの記録や労働者へのヒアリングなどを基に、労働時間の過少申告等で不払が生じている労働時間数などについて調査を行い、不払となっている割増賃金を支払った。

<実施した取り組み>

①労基署の職員を講師として、各施設の管理者を対象とした労働時間の適正な管理に関する研修会を実施し、管理者が労働者の労働時間を適切に管理する必要性について意識向上を図った。

②勤怠記録と業務で使用するパソコン等の記録等を確認することにより適正な労働時間が記録されているか確認することとした。

③実態調査の中で割増賃金を支払うための十分な予算措置が講じられておらず、残業時間を適正に申告してもその時間に対する割増賃金が払われないことが、残業時間を過小に申告するようになった要因の1つと判明したため、予算を理由として割増賃金が適正に支払われないことがないよう予算管理の部署と連携し、必要な予算措置を講じた。


事例⑧「小売業」

◆「出勤を記録をせずに働いている者がいる。管理者である店長はこのことを黙認している。」との情報を基に、労基署が立入調査を実施。

<労働基準監督署の指導>

◆ICカードを用いた勤怠システムで退社の記録を行った後も労働を行っている者が監視カメラに記録されていた映像から確認され、賃金不払残業の疑いが認められたため、実態調査を行うよう指導。

<事業場の対応>

◆労働者の正確な労働時間について把握すべく実態調査を行い、不払となっていた割増賃金を支払った。

<実施した取り組み>

①労働基準監督官を講師として、各店舗の管理者である店長を対象に労務管理に関する研修会を実施するとともに、店長以外の従業員に対しても会議等の機会を通じて法令遵守教育を行い、賃金不払残業を発生させない企業風土の醸成を図った。

②社内コンプライアンス組織の指導員を増員して、店舗巡回を行い、抜き打ち調査を行うことにより勤怠記録との乖離がないか確認することとした。


事例⑨「製造業」

◆「時間外労働が自発的学習とされ割増賃金が支払われない」との情報を基に、労基署が立入調査を実施。

<労働基準監督署の指導>

◆ICカードを用いた勤怠システムにより労働時間管理を行っていたが、ICカードで記録されていた時間と労働時間として認定している時間との間の乖離が大きい者や乖離の理由が「自発的な学習」とされている者が散見され、賃金不払残業の疑いが認められたため、実態調査を行うよう指導。

<事業場の対応>

◆勤怠記録との乖離の理由が自発的な学習であったのか否かについて労働者からのヒアリングを基に実態調査を行った。この結果、自発的な学習とは認められない時間について不払となっていた割増賃金を支払った。

<実施した取り組み>

①代表取締役が適切な労働時間管理を行っていくとの決意を表明し、管理職に対して時間外労働の適正な取扱いについて説明を行った。

②労働組合と協議を行い、今後、同様の賃金不払残業を発生させないために労使双方で協力して取組を行うこととした。

③事業場の責任者による定期的な職場巡視を行い、退勤処理をしたにもかかわらず勤務している者がいないかチェックする体制を構築した。


事例⑩「製造業」

◆「自己申告制が適正に運用されていないため賃金不払残業が発生している」との情報を基に、労基署が立入調査を実施

<労働基準監督署の指導>

◆生産部門は、ICカードを用いた勤怠システムにより客観的に労働時間を把握している一方、非生産部門は、労働者の自己申告による労働時間管理を行っていた。非生産部門の労働者について、申告された時間外労働時間数の集計や、割増賃金の支払が一切行われておらず、賃金不払残業の疑いが認められたため、実態調査を行うよう指導。

<事業場の対応>

◆非生産部門の労働者について、申告が行われていた記録を基に時間外労働時間数の集計を行い、不払となっていた割増賃金を支払った。

<実施した取り組み>

①非生産部門もICカードを用いた勤怠システムで労働時間管理を行うとともに、時間外労働を行う際には、残業申請書を提出させ、残業申請書と勤怠記録との乖離があった場合には、実態調査を行うこととした。

②労務管理担当の役員から労働時間の管理者及び労働者に対して、労働時間管理が不適切な現状であったため改善する旨の説明を行い、客観的な記録を基礎として労働時間を把握することの重要性についての認識を共有した。


働き方改革以降、労働局・労働基準監督署の「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導」の強化が行われています。ITの普及により、こんな場合は労働基準法違反になるんじゃないかという問いへのアンサーをすぐに調べることができ、そして法令違反があった場合、労働基準監督署への通報などがあれば調査が入ることになります。欧米諸国では労働者の人権が問題になり、法整備も進んでいます。また法令順守は企業単体の問題ではなく、サプライチェーン全体としての責任も問われるようになってきています。問題点があれば放置せず、今後の経営リスクとして早めに解消しておかれるのが良いと思います。

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