本日は昨日の続きから見ていきたいと思います
🔴過去の社会保険労務士法の改正
出所:兵庫県社会保険労務士政治連盟「社会保険労務士法改正の概要」
🔴現在議論が進んでる「9次」改正案(主な柱)
①社労士の使命に関する規定の新設
昨日の記事にもある通り、業務の明確化(●●の専門家として・・・)がなされるのではと思います。
・弁理士:知的財産に関する専門家として
・司法書士:登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として
・土地家屋調査士:不動産の表示に関する登記及び土地の筆界を明らかにする業務の専門家として
・税理士:税務に関する専門家として
・公認会計士:監査及び会計の専門家として
②労務監査に関する業務の明記
以前の記事「人権DD(デューディリジェンス)とは? 企業に求められる取組み」にも書きましたが、世界的に人権デュー・ディリジェンスに関する法令案や法律が整備されてきています。日本でも2022年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が策定されました。今後、企業の労務監査の必要性は高まっていくと考えられます。
・労務監査とは、労働関係法を中心とする法令が社内で守られているか企業が調査を行うことです。監査といえば、法定の会計監査がよく知られていますが、労務監査は任意であるため、定期的に実施している会社はまだ多くありません。出所:日新火災海上「会社を守る「労務監査」のすすめ」
・労務監査は法律で義務付けられているわけではないため、実施していない企業もあるでしょう。しかし、以前にも増して企業のコンプライアンスが重視されるようになっています。適切なタイミングで労務監査を実施し、問題点があれば速やかに改善していくことは、有効なリスクマネジメントともいえます。出所:パナソニック「労務監査とは?実施のタイミングや流れ、チェックポイント」
③社労士による裁判所への出頭および陳述に関する規定の整備
社労士は補佐人として、労働社会保険に関する行政訴訟の場面や、個別労働関係紛争に関する民事訴訟の場面で、弁護士とともに裁判所に出頭し、陳述することができます。依頼者は、相談の段階から支援を受けてきた社労士が、補佐人として弁護士とともに訴訟の対応にあたることで、安心して訴訟による解決を選択することができるようになります。出所:全国社会保険労務士会連合会「補佐人の業務」
社労士にも特定社会保険労務士(通常の社労士の業務に加えて、労働者と事業主のあいだで個別労働関係紛争が起きたときに、代理人としての対応業務を行うことが認められており、裁判によらない円満解決のために業務を担います)の制度がありますが、紛争に積極的に関与する社労士は少ないのが現状です。
④名称の使用制限に係る類似名称の例示の明記
法律名「社会保険労務士法」及び国家資格名「社会保険労務士」との名称は変えずに、略称として「社労士」を使用することについて法律上の根拠規定を設けることとする。したがって、登録、登記等の手続等法律関係上は、「社会保険労務士法」を従前どおり使用することとする。また、「社労士」の名称について、使用制限の規定を新設する。ここに関しては、現在でも「社労士」が一般的になってきていますし、法律に明記するという手続き的な改正だと思います。
🔴日本労働弁護団による反対意見
昨日12月9日に社労士法改正案に対する緊急声明が日本労働弁護団より出されました。
反対意見としては上記①~③の部分で
①目的規制を改正することは許されない
②監査業務に拡大することは不適当である
③補佐人として裁判所に出頭し陳述する範囲を拡大するべきではない
結構辛辣な文言が並びます。③に関しては弁護士との業際問題になるので反対するのは解らなくはないですが、①に関しては「適切な労務管理の確立」「適正な労働環境の形成に寄与」することを明記するもので、これは、社会保険労務士に新たな権限をも付与することに繋がるものであり、反対である」とあります。適切な労務管理や適正な労働環境が形成されれば、世界のトレンドである人権DD(デューデリジェンス)への対策にも繋がり良い事だと思うのですが、これは弁護士の領域だという事でしょうか。
②では「改正案により社会保険労務士が求められる業務は「監査」であるところ、社会保険労務士が、当該業務を通じて依頼者である企業に対し、労働法の遵守状況について、いわば「お墨付き」を与えることになる。「監査」は単に法令違背のチェックをすればすむものではなく、紛争予防の見地からなされる必要がある。このような重大な業務を、試験等による知識レベルの確認が一切なされていない士業者に対して与えることは、安易にその業務範囲を拡大するものである」とあります。要は社労士では能力不足だから、これも弁護士が扱う領域だという事が伺えます。
出所:日本労働弁護団「社労士法改正案に対する緊急声明」
今回は2回に渡って、社会保険労務士法について見てきました。最近は解雇や未払い残業代などの労働トラブル、ハラスメントや労災、育児や介護、年金など社労士が関わる業務が多岐にわたっています。弊所でもすべて受任できる訳ではなく、専門性を持った方にお繋ぎすることも少なくありません。また、クライアント様からのご依頼は人事労務に限らず、税務や法務、知的財産など専門家が必要な場合も数多くあります。弊所でもお客様の問題解決の一助となれるよう専門性を磨き、日々研鑽して参りたいと思います。