●6月25日、「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」の報告書が金融庁から発表されました。これはビッグモーターを始めとする一連の不祥事に対して、今後の業界全体の方向性を示した重要な報告書になります。
🔴護送船団方式
今の若い方はご存じないかも知れませんが、昔はどこの保険会社で加入しても料金も内容も変わらないという時代がありました。旧大蔵省(現:財務省)の統制のもと「護送船団方式」と呼ばれ、バブル崩壊の1990年代まで行われており、目的としては経営体力のない金融機関に合わせて破綻しないように業界全体をコントロールすること。しかし、自由な市場競争により他社より優れた商品・サービスを供給したものが勝ち残るという、本来の資本主義とはなじまない事が問題視されました。その後、1996年から始まった金融ビックバン(Free・Fair・Globalの3原則)により、完全自由化に向けて動き始めます。
🔴金融ビッグバン以降の業界の動き
競争原理が働いたことにより、新たなサービス、魅力的な商品が開発され、ユーザーにとってはメリットは大きかったのですが、保険会社は本来のメーカーとしての役割(新たなサービス・魅力的な商品の開発)に加えて、価格競争・シェアの奪い合いなどに追われ、特に大きな売り上げが期待できそうな企業や代理店に対しては、特別な割引や過剰なサービスを提供していくようになります。その後の流れについては、保険会社間のカルテルの問題や、ビッグモーター事件のような不祥事につながり(氷山の一角です)、金融庁も重い腰を上げたのが今回の報告書です。
報告書では、顧客本位の業務運営の徹底により信頼を取り戻すための施策が示されていて、改善策も具体的に定められています。保険代理店に対する規制も相当強化されそうです。ただ、金融庁と保険会社との関係など問題になる部分はブラックボックス化しています。(今回のビッグモーターの件で保険会社には業務改善命令で終了?)
🔴各保険会社の業界におけるシェア
損害保険会社は大手4社(東京海上日動・損保ジャパン・三井住友海上・あいおいニッセイ同和)と呼ばれる会社のシェアが全体の約82%あります。この4社が業界内で大きな力を持っていることは容易に想像がつきます。損害保険会社・生命保険会社のROA・ROEについて
出典:金融庁「損害保険会社・免許一覧 2024年5月21日現在」 ・順位は正味収入保険料順(単位:百万円)「正味収入保険料は各保険会社ホームページより抜粋」
🔴今後に向けての課題
現在、全国に損害保険代理店が156,152店あります。そのうちの128,379店(82.2%)が副業的に代理店業務を行っており、専業は27,773店(17.8%)しかいません。
副業的に保険を取り扱っている代理店(82.2%)のうち、85,521店(54.8%)が自動車関連業、14719店(9.4%)が不動産業です。
また156,152店のうち、1つの会社しか扱っていない代理店は、119,712店(76.7%)です。
世界2位の保険大国である日本。このようなデータで予測できるのは、専業の大型代理店または保険会社出資の代理店が、規模が大きくなく副業的に扱っている代理店の契約を集約、コンプライアンス・顧客本位の業務運営を徹底し、不祥事を起こさないように運営していくという流れが見えてきます。日本ではアメリカと違い、損害保険の契約は保険会社に帰属しているので、保険会社との力関係・利害関係などによって集約先が決まってくることになります。
今回の「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」 で話し合われた「顧客本位」という言葉通り、真面目な顧客が損をしないような公正・公平な仕組みづくりを徹底して頂きたいと思います。
参考文献:SOMPOインスティチュート・プラス「アメリカ損害保険事情」