昨日に引き続き、年次有給休暇のパート②をお届けしたいと思います。年次有給休暇は労働者にとって身近な制度のため、様々な情報が入ってきます。最近はスマホですぐに調べることができるために、うちの会社はブラックだとか、うちの会社はコンプライアンス(法令遵守)が守れていないだとか、果てはSNSに書き込んだりするケースもあります。経営者の皆様、管理部門の皆様には大変な時代になってきました。特に最近は価値観の多様性により、給与よりも休みを重要視する若者も増えてきています。昨日の記事(年次有給休暇 QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)向上にむけて)でもお伝えしましたが、年次有給休暇も半日単位や時間帯での取得、計画的付与など年々変化してきていますので、知識のアップデートも必要になってきています。今回は予定通り、昨日の続きをお送りさせて頂きます。
🔴年次有給休暇にまつわる有名な判例
🔵白石営林署事件:昭和48年3月2日 最高裁判例 全文
裁判要旨:年次有給休暇における休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であると解すべきである。
ポイント①:年次有給休暇は、労働者の当然の権利であって、使用者の承認を得る必要はない
ポイント②:事業の正常な運営を妨げる」か否かは、当該労働者の所属する事業場を基準として判断すべきである。
🔵弘前電報電話局事件:昭和62年7月10日 最高裁判例 全文
裁判要旨:勤務割における勤務予定日につき年次休暇の時季指定がされた場合であつても、使用者が、通常の配慮をすれば勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能であるときに、休暇の利用目的を考慮して勤務割変更のための配慮をせずに時季変更権を行使することは、許されない。
ポイント:労働者が●月●日休みます→会社が代替勤務者を手配しないで、時季変更権を行使→それは事業の正常な運営を妨げたとは言えない。通常の配慮すれば休ますことは出来るのではないか。
🔵沼津交通事件:平成5年6月25日 最高裁判例 全文
裁判要旨:タクシー会社の乗務員に対し、月ごとの勤務予定表どおり勤務した場合には皆勤手当を支給するが、右勤務予定表作成後に年次有給休暇を取得した場合には右手当の全部又は一部を支給しない旨の約定は、右手当の支給が代替要員の手配が困難となり自動車の実働率が低下する事態を避ける配慮をした乗務員に対する報奨としてされ、右手当の額も相対的に大きいものではないなどの判示の事情の下においては、年次有給休暇取得の権利の行使を抑制して労働基準法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものとは認められず、公序に反する無効なものとはいえない。
ポイント:年休による欠勤を、皆勤手当の計算で欠勤扱いにできるか? できる(皆勤手当の額が高額でない・勤務表の作成後で、代替勤務者を手配するのが困難)
🔴年次有給休暇の海外の事例
●アメリカ ・公的な有給休暇の制度はない(各企業の福利厚生で制度化しているので、有給がない企業もある)
●イギリス ・13週間(3か月+1週)継続勤務を行った労働者が有給休暇を付与される。付与日数は、1年につき、週の就労日×5.6日間で、最高28日まで
●フランス ・10日以上の雇用で年休の権利が得られ、法定の年休は30労働日(1 カ月ごとに2.5日)。法律上は,土曜日は労働日の計算になるので,実質的には25日の年休。
●韓国 ・1年間の所定労働日数の80%以上を出勤した労働者に、その翌年から15日の有給年次休暇を与えなければならない。その後2年ごとに1日を加算し、25日を限度とする。
●中国 ・勤務開始1年経過後に5日付与され、10年経過で10日、最大は20年で15日。面白いのは、勤務の累計を引き継げること(5年で退職しても、次の職場では勤続5年からスタート)
🔵日本は祝日の数が16日と世界でも多く(10位)、年休と合わせた休日数は他の先進国と比べても少なくありません。ただ、日本人は大型連休を取らず、毎月少しずつお休みを取る人が多い珍しい民族ですので、欧米諸国のバカンスのような長期休暇を見ると、日本はお休みが少ないと錯覚するのかも知れません。
🔴100名までの企業における年次有給休暇の活用事例
★54名:製造業
・10年以上前は取得理由を確認していたが、理由を問わず個々人の休みを尊重するようになってから取得率が増加した。
・10年前に時間単位の年次有給休暇制度を導入。5~6年前から子育て中の社員が時間単位の年次有給休暇を取得する機会が増え、会社も応援することで取得が増加した。 それに伴いベテラン社員等にも広がり、令和3年度の平均取得日数は14.1日、年平均取得率は83%となっている。
★27名:自動車小売業
① 入社3か月後より10日付与、翌年7月に一斉更新している。1時間単位の取得も可能。遅刻をしそうになった時は、始業時間の8時までに連絡があれば、時間単位の年次有給休暇取得を認めている。就業時間途中の時間単位の年次有給休暇取得も認めている。(歯医者などへの通院や急な子供等の送り迎えも取得可。)
② 業務の閑散期は年次有給休暇の取得を積極的に促進している。(必要な人員を確保するため、メリハリをつけた年次有給休暇取得の促進を行っている。)
③ 年次有給休暇の申請は3日前まで。あらかじめ休む社員が分かることで、業務の管理ができるようになった。(病気など急なものに関しては3日前でなくても取得可能。)
④ 「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が義務化された2019年4月からは、お客様の都合等で業務を行うことが多い営業職に対しては、計画的付与制度を導入。 ※年次有給休暇:2016年(平成28年)7月までは、取得日数0日であった。
★40名:建築設備メンテナンス業
・人によって年次有給休暇の取得率にばらつきがあり、課題と感じている。会社としては、取得率を半年に1度確認し、取得率が低い従業員に対して声かけを行っている。
・ 管理職の取得率が低い傾向にある。
・年次有給休暇の取得率 100%を目標に掲げている。2カ月に1回全社会議を開催し、その際、代表取締役より休暇取得促進に関するメッセージを発信している。
★39名:サービス業
・期首(9/1)の前月8月に、全社員の有休取得希望を確認している。また年間の業務計画表を全社員に周知しており、業務の閑散期を計画有休取得推奨日に設定。「計画有休調査票」を提出してもらい、業務計画表を作成する際に活用している。
★29名:総合建設業
・GW、お盆休み、年末年始休暇など、休日と祝日の間をブリッジ休暇として年次有給休暇を申請するよう促すなど、上長から長期休暇をとるように声掛けをしています。また、ひとつの工事が終了し次の現場に配属されるまでの間には、まとまった休暇を取るように促し、労働者のリフレッシュに努めています。 子供の行事への参加や介護が必要な家族の送迎などを容易にするために、時間単位の年次有給休暇制度を導入し、労働者のワーク・ライフ・バランスに寄与しています。
★46名:建設業
・「有給休暇チケット」を配布することにした。各社員には5枚ずつ「有給休暇チケット」が配布され、それぞれが休みたい日を書いて、上司に提出する仕組みとしている。初年度はチケットの残数なども管理をしていたが、2018年に開始して1~2年程度で、年次有給休暇を気軽に取得しやすい雰囲気ができたため、2023年現在はチケットの配布は行っていない。
★78名:製造業
・多能工化の取り組みにより、誰かが休んでもカバーできる体制が構築されたことをふまえ、さらなる取得促進のために、各部署で年次有給休暇の取得計画を作成し、計画的な取得を奨励している。月1回のチームリーダーの会議の際に、各部署の休暇取得計画を共有し、人員が不足しそうな場合は他部署からフォローしてもらえるように調整している。多能工化に取り組んできたことで、部署を超えたフォローをすることができるようになった。また、それにより管理職が休暇を取得する部下のフォローに当たる必要がなくなり、管理職も休暇を取得しやすくなった。
★13名:製造業
・2013年に時間単位の年次有給休暇制度を導入した。社員数も多くないため、年次有給休暇の管理はワークシート上で行っている。また、給与明細に残りの年次有給休暇の日数と取得可能な時間数を記載することにしており、社員もそこで確認することができる。年次有給休暇を取得する際は、社内チャットツールを利用して申請してもらうことにしている。社内チャットで申請を行うと、休暇情報の共有がその場でできるため、業務のカバー体制もすぐに相談でき、フォローもしやすくなっている。
★15名:情報通信業
・年次有給休暇を全て取得した後に利用できるアディショナル休暇制度を導入した。会社設立後、従業員の採用を開始したのは2021年からで、全従業員が中途採用で勤続年数が短いことから、年次有給休暇の付与について法定を上回る対応をしているものの、付与日数は概ね12日~14日程度の者が多い。そのため、アディショナル休暇制度を設けることで、従業員が安心して年次有給休暇を取得できるようにした。
★29名:建設業
・年間平均1人10日間以上の取得を目標にすると共に、毎月、管理職に取得実績を配信して見える化することで、年次有給休暇取得に対する意識を高めています。 半日単位や時間単位での付与制度もあります。 また、年次有給休暇を取得して旅行や趣味の活動を行った社員に対して、1か月に1回のみに限り費用の補助をする「趣味に対する補助金」制度もあります。
★6名:医療業
・年次有給休暇の計画的付与 全員がシフトによる勤務であり、有給休暇の取得を積極的には行いにくい職場環境であったため、取得促進を目的として導入しました。この制度の運用にあたり、全員で一斉取得するために診療所を休診日とする決断もしましたが、患者様にも理解を得られるよう事前に案内したことで、大きな混乱なく運用できています。
★9名:医療業
・取得促進のため時間単位の年次有給休暇を導入することとしました。 それに伴い、上記改善委員会において時間単位でも年次有給休暇が取得できるようになったことを説明しました。その時点では、職員からは人数が少ないことによりなかなか取得はできないとの話もありました。 しかし、時間単位年休についてしっかり説明、周知をした結果、少し早めに帰りたいというような場合に時間単位での取得が見られるようになりました。
★25名:広告・出版業
・年3日の計画的付与制度を導入している。年4日程ある土曜の勤務日に年次有給休暇の計画的付与制度を導入し、3日を一斉付与としている。 ・取得の単位は、1労働日、半日、時間単位としている。
★56名:福祉業
・スタッフ全員へ向けて、毎月発行している「事務おたより」にて定期的に年次有給休暇取得促進を案内。 年次有給休暇は時間単位、半日単位での取得が可能なため、勤務に柔軟に対応している。
★98名:卸売業
・年次有給休暇の取得促進にむけて計画的付与制度を活用した。また、連休の間にある出勤日を有給休暇取得推奨日と設定して、メールや文書回覧で周知した。
★13名:卸売業
・シフト作成時に週休2日を先に計画し社員の休日計画を立てやすいように配慮した。これにより社員の年2回の連続休暇(有給5日休日5日)の年休の計画取得を促進した。
★67名:建設業
・年次有給休暇を取得しづらいという雰囲気を変えるため、どんどん休んでもよい、ということを社長から積極的に発信した。また、年次有給休暇の最多取得者を表彰することとした。さらに、家族の記念日での年次有給休暇取得を奨励したことで、子どもの誕生日などでも休みが取りやすくなった。どうしても現場が忙しく、年次有給休暇がとれない社員については、現場が終わった後、まとめて休暇をとってもよいということにしている。長い人だと、10日程度連続して休暇を取得しているケースもある。
★38名:製造業
・意識啓発を目的に、あまり取得しない社員には部署のリーダーや総務から声掛けをしたり、年次有給休暇取得を啓発するポスターを掲示したりするなどの働きかけを行った。勤怠管理システムを導入したことで、年次有給休暇の取得申請がしやすくなった。システム導入前は、紙に記入してリーダーに直接提出する必要があり、多少のためらいがあったようだが、システム導入後は私用スマホからも申請できるため、申請のハードルが下がった。また、会社も本人も、残日数の管理がしやすくなった。
★64名:福祉業
・年間52週を4週で区切り、1年につき13個の勤務表を作成している。職員には一つの勤務表の中で、1日は年次有給休暇の取得予定日を設けるように促しており、自然と年次有給休暇を13日取得できるようにしている。勤務表ごとに設定する年次有給休暇の取得予定日は、勤務表作成の5日前までに希望を申請してもらっている。
★53名:卸売業・小売業
・以前に比べて半休の取得が進んできており、午前中はテレワーク、午後は半休などの組み合わせも多くみられる。業務の棚卸やテレワークの導入のほか、年次有給休暇の取得日数の少ない社員に対する声掛けなどを行い、本社において「自身のリフレッシュのために休んでよいのだ」という雰囲気が醸成されてきたことで、新潟の工場など、他拠点でも休暇を取得しやすい雰囲気が波及してきている。
★52名:卸売業・小売業
・取得日数が少ない社員については、人事が、休暇が取得しづらい状況になっていないかどうかを確認し、必要に応じて上長とも話をしている。あわせて、傷病休暇を特別休暇として年5日付与している。これは、年次有給休暇を病気のときに取得するのではなく、本来のリフレッシュ等の目的で活用してほしいとの思いからである。
★78名:サービス業
・年次有給休暇の計画的付与は行っておらず、自ずと休みを取得する風土ができてきている。中には「休みを取るよりも仕事をしたい」と考える社員もいるが、よい仕事をするためには休暇を取得し、体調管理をすることも重要であると説明し、取得を促している。
★29名:サービス業
・年次有給休暇は半日単位でも取得が可能であり、通院や子どもの授業参観等に活用されている。制度の導入までは、用事が半日しかなくても1日休暇を取得しなければならなかったため、半日単位で利用できる年次有給休暇は好評である。
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