前回まで2回にわたり「ハラスメント」について見てきましたが、実際ハラスメント等が起こった場合に、会社が加害者の管理責任を怠ったとして使用者責任を問われるケースがあります。また、会社だけではなく、会社の役員まで一緒に訴えられるケースもあります。今回は、会社と会社の役員が押さえておいて欲しい訴訟リスクについて共有していきたいと思います。
🔴不法行為と使用者責任
順番としては、まず不法行為があり、その結果、使用者責任を追及されることになります。
🔵不法行為とは
民法第709条に根拠があり「 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」とされています。
ハラスメント加害者の故意または過失によって、被害者の職場での権利が侵害され、精神的な苦痛が生じ働けなくなったので、その損害を賠償する責任があるというのが一例として挙げられます。では誰がその賠償をするのか?
民法715条では、使用者の責任を明記しています。
ある事業のために「他人を使用する者」は、被用者がその事業の執行について「第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意※をしたとき、又は相当の注意※をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
🔵報償責任の法理・危険責任の法理
報償責任の法理は、「利益を得ている者(会社)」はその過程で他人の損害を与えた場合、その損害を負担すべきという考え方です。 危険責任の法理は、危険な活動で「利益を得ている者(会社)」はその活動により他人の損害を与えた場合、その損害も負担すべきという考え方になります。
🔵会社には大きな責任がある
※相当の注意は、上記の報償責任の法理・危険責任の法理から認められることは非常に少なく、無過失であったとしても会社に責任が及ぶことがあることを使用者(役員含む)は知っておく必要があります。
🔴役員の7つの義務と3つの訴訟リスク
🔵7つの義務
🔵3つの訴訟リスク
🔵会社法847条・423条・429条に基づく損害賠償
※出所:e-Govの条文より抜粋しております。(完全な条文ではありませんので詳細は本条をご確認ください)
🔴訴訟事例
トーヨータイヤ事件(株主代表訴訟) 令和6年1月26日・大阪地裁
1:建築基準法37条所定の指定建築材料として子会社が製造する免震積層ゴムについて、国土交通大臣の認定において定められた技術的基準に適合していると認識ないし評価して出荷停止の判断をしなかった親会社取締役の「任務懈怠」が認められた事例
2:出荷済みの免震積層ゴムに前記技術的基準を満たしていないものがあることについて、国土交通省への報告及び一般への公表をする判断をしなかった取締役の「任務懈怠」が認められた事例
今回の事例は、株主から取締役への「任務懈怠」による損害の請求ですが、ハラスメントや労災などでも会社だけでなく役員個人、管理職もが責任追及されるケースもあります。
役員等の7つの義務を果たすとともに、民間の保険会社が販売している「D&O保険」や「使用者賠償責任保険」なども活用し、リスクヘッジすることも大切な経営戦略の一つになります。保険のことは弊所併設の保険代理店でもご相談をお受けできますが、法律相談は出来ませんので弁護士の先生にお尋ね頂けると幸いです。