先日の厚生労働白書から10日経ち、労働経済の分析(労働経済白書)が発表されました。先日の記事「令和6年版厚生労働白書」が公表されました で厚生労働白書は見ましたが、本日は令和6年版労働経済の分析のテーマ「人手不足への対応」を見ていきたいと思います。
🔴労働経済の分析のポイント
人手不足には、需要増加、労働時間短縮、サービス産業化の進展等が複合的に影響しています。今後も人口減少や高齢化が続くことが見込まれる中、2010年代以降の人手不足は「長期かつ粘着的」となっており、さらに、2023年時点で、人手不足が相当に広い範囲の産業・職業で生じています。こうした人手不足に対応するためには、主に下記のような課題を解消していく必要があります。
① 労働生産性の向上に引き続き取り組んでいく
② 女性、高齢者、外国人等の多様な人材が活躍できる職場づくり
③ 介護や小売・サービス等の人手不足が深刻な分野においては、離職率を下げることが重要
④ 賃金水準をはじめ労働環境、労働条件の整備・改善が求められる
⑤ I CT(情報通信技術)の活用や機械化の対応も効果的である。
出典:厚生労働省「令和6年版 労働経済の分析」
🔴課題①「労働生産性の向上への取り組み」
・デジタルツールの導入
業務の自動化や効率化を図るために、AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入することが有効です。これにより、単純作業を自動化し、従業員がより付加価値の高い業務に集中できるようになります。
・リモートワークの推進
リモートワークを推進することで、通勤時間の削減や柔軟な働き方が可能になります。これにより、従業員のワークライフバランスが改善され、生産性が向上します。
・スキルアップと教育
従業員のスキルアップを図るための研修や教育プログラムを充実させることが重要です。特にデジタルスキルや新しい技術に関する教育を強化することで、生産性の向上が期待できます。
・業務プロセスの見直し
業務プロセスを可視化し、無駄を排除するための改善活動を行います。これにより、業務の効率化が図られ、生産性が向上します。
・アウトソーシングの活用
コア業務以外の業務をアウトソーシングすることで、従業員が本来の業務に集中できる環境を整えます。
🔴課題②「女性、高齢者、外国人等の多様な人材の活用」
・女性の活躍推進
柔軟な働き方の導入: テレワークやフレックスタイム制度を導入し、育児や介護と仕事の両立を支援します。
キャリア支援プログラム: 女性のキャリアアップを支援するためのメンター制度や研修プログラムを提供します。
・高齢者の活用
再雇用制度の拡充: 定年後も働き続けられるよう、再雇用制度を整備します。
スキルアップ支援: 高齢者向けのスキルアップ研修を実施し、最新の技術や知識を習得できる機会を提供します。
・外国人材の活用
ビザ制度の緩和: 特定技能ビザの取得を容易にし、外国人労働者の受け入れを促進します。
日本語教育の充実: 外国人労働者が円滑に働けるよう、日本語教育プログラムを充実させます。
・多様な働き方の推進
ダイバーシティ経営の推進: 経済産業省が提唱するダイバーシティ経営を取り入れ、多様な人材が活躍できる環境を整備します1。
インクルージョンの促進: 多様なバックグラウンドを持つ人々が働きやすい職場環境を整え、全ての従業員が能力を発揮できるようにします。
・働きやすい環境の整備
職場のハラスメント対策: ハラスメント防止のための研修や相談窓口を設置し、安心して働ける環境を提供します。
健康管理の充実: 健康診断やメンタルヘルスケアの充実を図り、従業員の健康をサポートします。
🔴課題③「人手不足が深刻な分野への対策」
・医療・介護分野
待遇改善: 医療・介護職の待遇を改善し、労働環境を整えることで、職員の定着率を向上させます。
外国人労働者の受け入れ: 特定技能ビザの活用を促進し、外国人労働者を積極的に受け入れます。
テクノロジーの導入: AIやロボット技術を活用し、業務の効率化を図ります。
・建設業
若者の参入促進: 建設業の魅力を発信し、若者の参入を促進します。例えば、職業訓練校との連携やインターンシップ制度の充実を図ります。
技能実習制度の改善: 技能実習生の受け入れ体制を整備し、労働環境の改善を図ります。
デジタル技術の活用: BIM(Building Information Modeling)やドローン技術を導入し、業務の効率化を進めます。
・IT分野
教育プログラムの充実: ITスキルを持つ人材を育成するための教育プログラムを充実させます。特に、プログラミング教育やデジタルスキルの習得を支援します。
リモートワークの推進: リモートワークを推進し、地方や海外からの人材を活用します。
外国人技術者の受け入れ: 高度な技術を持つ外国人技術者の受け入れを促進します。
・運輸・物流分野
労働条件の改善: 労働時間の短縮や休暇制度の充実を図り、労働環境を改善します。
自動化技術の導入: 自動運転車やドローン配送などの自動化技術を導入し、業務の効率化を図ります。
女性や高齢者の活用: 女性や高齢者が働きやすい環境を整備し、多様な人材を活用します。
🔴課題④「労働環境、労働条件の整備・改善」
・柔軟な働き方の導入
テレワークやフレックスタイム制度の導入により、働きやすい環境を提供します。これにより、育児や介護をしている人々も働きやすくなります。
・賃金の見直し
賃金の引き上げや賞与の充実を図ることで、労働者のモチベーションを高め、離職率を低下させます。
・労働時間の短縮
長時間労働の是正を進め、適切な休暇を確保することで、労働者の健康を守り、仕事の効率を向上させます。
・職場環境の改善
職場の安全性や快適性を向上させるための設備投資を行います。例えば、エアコンの設置や休憩スペースの充実などが考えられます。
・キャリアパスの明確化
労働者が将来のキャリアを見据えて働けるよう、昇進やスキルアップの機会を提供します。これにより、長期的な雇用を促進します。
🔴課題⑤「ICTやAIなどの活用」
・業務の自動化
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション): 定型業務を自動化することで、従業員がより付加価値の高い業務に集中できるようにします。例えば、データ入力や請求書処理などの事務作業を自動化します。
・AIによるデータ分析
予測分析: AIを活用して市場動向や需要予測を行い、在庫管理や生産計画を最適化します。これにより、無駄を削減し、効率的な運営が可能になります2。
顧客分析: 顧客データをAIで分析し、マーケティング戦略やサービス改善に役立てます。
・IoTの導入
スマートファクトリー: IoTセンサーを工場に導入し、機器の稼働状況や生産ラインの効率をリアルタイムで監視・管理します。これにより、故障の予防や生産性の向上が図れます3。
スマート農業: IoT技術を活用して、農作物の生育状況や土壌の状態をモニタリングし、最適な栽培方法を実施します。
今回で75回目となる労働経済の分析ですが、昨今話題になっている「人手不足」に関する分析がメインテーマでした。昨年のテーマが「持続的な賃上げに向けて」でしたので、経済が回り出す→雇用の流動性が高まる→人手不足の流れかと感じます。最近は大企業でも中途採用比率が高まり、優秀な人材が大企業内で循環するため、中小企業では欲しい人材を確保しにくい状況が生まれています。上記の分析のポイントでもあるように、国は「女性・高齢者・外国人」と活用できる人材をフル活用しようと考えています。多様性はプラスの要素も大いにありますが、企業にとっては画一性よりも労務管理が複雑になります。人手不足は賃金水準の向上、ICTの活用や機械化の対応で補うなど国は様々な対策を提示していますが、変革についてこれる体力のある企業だけ残ればいいというメッセージのような気がするのは穿った見方でしょうか。