ヒヤリハットというと、もう聞き飽きたという方も多いのではないでしょうか。弊所は保険代理店を併設しておりますので、ヒヤリハットで済まない重大な事故を数多く見てきています。あの時もう少し気を付けて運転していれば・・・、安全確認を怠ったために取り返しのつかないことが・・・など枚挙にいとまがありません。確かに従業員の立場からすると、ヒヤリハットの研修などは面倒くさい点もあるかも知れません。ただ、ヒヤリハットで済んでいるのも「運が良かっただけ」というのも事実です。今回は製造業の事例を中心にリスクマネジメントの一端を共有していきたいと思います。
🔴ハインリッヒの法則
アメリカの損害保険会社の安全技師であったハインリッヒが発表した法則です。「同じ人間が起こした330件の災害のうち、1件は重い災害(死亡や手足の切断等の大事故のみではない。)があったとすると、29回の軽傷(応急手当だけですむかすり傷)、傷害のない事故(傷害や物損の可能性があるもの)を300回起こしている。」というもので、300回の無傷害事故の背後には数千の不安全行動や不安全状態があることも指摘しています。また、ハインリッヒは、この比率について、鉄骨の組立と事務員では自ずから異なっているとも言っていますが、比率の数字そのものではなく、事故と災害の関係を示す法則としては、現在も十分に活用できる考え方です。
出所:厚生労働省「ハインリッヒの法則」
ヒヤリハットを起こしてしまう時点で、重大な事故に繋がる可能性は出てきます。ヒヤリハットに行くまでの不注意や不安全行動をいかに少なくするかが重要になります。その為には、従業員の体調管理や心理的な負担を減らすことも大切なマネジメントと言えます。
私も仕事疲れで居眠りをしてしまい民家の壁に追突したことがあります。その際は怪我人などおらず壁の修理だけで済みましたが、これが歩行者の列などに追突したと考えれば、ニュースで取り上げられるような重大な事故につながっていた可能性も大いにあります。それ以来、疲れているときは車を運転しないことで不注意や不安全行動のリスクを抑えています。経営陣は従業員の安全配慮も大切な仕事ですので、ハザードの特定などリスクアセスメントに対してしっかりと検討する必要があります。
🔴ヒヤリハット事例集(製造業編)
【 墜落・転落 】
作業台清掃中、水のホースが躍ってバランスを崩し、踏み台から落ちそうになった
生コン車のホッパー部分を清掃中、足を滑らせステップから転落しそうになった
積み荷の揺り返しによりフレコンバッグが当たり、荷台から転落しそうになった
蛍光灯を取り付ける作業中、移動式足場から足を踏み外しそうになった
【 転倒 】
女性作業員が台車上の容器の移動作業中、容器を持ち上げたときに足を台車上に乗せてしまい、台車が動いて転倒しそうになった
冷蔵庫内で運搬作業中、床に堆積していた霜で滑り転倒しそうになった
床面とエレベーターの「かご」の間の段差に引っ掛かり、引き出そうとしていた台車が転倒した
電気計器類倉庫内で急ぎの部品調達のため、小走りで移動中、交差十字路の手前で横方向の同僚を確認、急に止まろうとしてよろめいた
フリーローラーの上に置いた板に乗りボルトを締め付けた時、転倒しそうになった
原反移し替え作業時に、床の出っ張りでつまずき、転倒しそうになった
柵を跨いで花壇内に入ろうとしたところ、ズボンの裾が引っ掛かった
【 激突 】
廃棄書類を捨てようと、車両のトランクから荷を取り出し振り向いたときトランクの扉に頭を打ちそうになった
移動式クレーンから荷卸し中、荷のバランスが崩れて回転し、ぶつかりそうになった
作業場を歩いていたところ、フォークリフトが方向転換のためバックしてきて激突しそうになった
天井クレーンのオペレーターと台車の走行レール越しに話をしていたとき、自動運転で近づいてきた台車に気づかず衝突しそうになった
【 飛来・落下 】
鋼材の吊上げ作業において、吊上げた鋼材のバランスが悪く、マグネットから外れて落ちそうになった
グラインダーで鋼板の面取りを行おうとしたところ、鋼板が足元へ落下した
フラッシュ材の切断中、材料が飛び出して人にあたりそうになった
粉砕機から外れた高圧空気ホースが危うく顔に当たりそうになった
【 はさまれ・巻き込まれ 】
樹脂の混練作業中、ゴム手袋をはめた状態で手を樹脂混練機の投入口に入れ、スクリューに巻き込まれそうになった
樹脂粉末のプレス成型作業で、プレスが下降中にプレス台に手を入れて、はさまれそうになった
箱詰機を使用中、詰まった製品を取り除こうとしたところ、手が挟まれそうになった
簡易リフトに水産食料品を積んだ手押し台車を入れ、のぞき込みながら可動ボタンを押して頭をはさまれそうになった
小型チェーンソーで小丸太切断中、首に巻いたタオルが巻き込まれそうになった
壁紙プリント機で作業中、移動フレームに腕をはさまれそうになった
【 切れ・こすれ 】
電動丸ノコを使用して作業中、回転中に歯に手が触れそうになった
【 高温・低温の物との接触 】
【 感電・火災 】
調整作業のため機械にまたがろうとした際、電源ケーブルの絶縁被覆が破損していた箇所からの漏電によって感電した
錆止め用の塗料が入っていた缶に、グラインダーの火花が飛び込んだ
【 有害物との接触 】
閉塞したバルブを下から棒で突っついていたとき、閉塞が取れて内液が急に流出し、熱いアルカリ液で火傷しそうになった
ノズルが給油口からはずれ、軽油がかかってしまい危うく誤飲しそうになった
ポリ塩化アルミニウムの入った容器に次亜塩素酸ナトリウムを誤まって投入しそうになった
【 交通事故 】
【 動作の反動・無理な動作 】
こねまぜ機の槽内に落下したへらを拾い上げようとして指が巻きこまれそうになった
ガスボンベを階段に引上げようとしたところ、腰に違和感があった
実際には大したことがない事例ですが、目的としてはヒヤリハット報告書を記入してもらうことではなく、報告書を書くことによる不注意や不安全行動の意識づけが重要だと考えます。仕事は慣れてきたころが一番危ないともよく言われます。従業員を守るためにも、会社を守るためにも、事故が起こる前の対策に時間を割くことが結果的に無駄な時間を削減でき、生産性を高められ、従業員にも還元できるのではないでしょうか。