WEEKLY HR & LABOR NEWS
今週1週間の
人事労務ニュース+保険代理店の人事労務
2026.8.24 MON ― 8.30 SUN
今週は、採用内定取消し、求人市場、賃金動向、災害時の労務管理、さらに米国EEOCの障害者雇用事例まで取り上げます。一見すると人事労務とは距離があるニュースも、中小企業の経営と実務にどうつながるかという視点から解説します。
今週の1分ウォッチ
忙しい経営者の方は、まずここだけ押さえてください。
採
内定通知を出す前の採用承認・人件費・取消事由を確認。
求
「人がいない」と「自社に応募が来ない」を分けて考える。
賃
採用給与だけでなく、既存社員との賃金バランスを確認。
災
「災害=休業手当不要」ではありません。BCPと労務管理を確認。
DX
DX後の勤怠・給与・研修システムが誰でも利用できるか。
保
比較推奨販売と募集人教育・評価制度を一体で確認。
01採用・内定
新卒の内定取消しが34人から80人へ―「内定」は会社都合で自由に取り消せるのか?
何が起きたのか
厚生労働省は8月28日、2026年3月卒業者の採用内定取消し等の状況を公表しました。内定取消しを行った企業は29事業所、対象者は80人。前年の21事業所・34人から、取消し人数は大きく増えました。入社時期を延期された人は2事業所・2人です。
「内定」と「採用予定」は同じではない
「まだ入社していないのだから、採用をやめられるのでは」と考えるのは危険です。採用内定通知の後に別途の契約締結が予定されていない場合などは、内定によって始期付解約権留保付労働契約が成立したと認められることがあります。
法的論点|内定取消しは解雇となる場合がある
会社は何をすべきか
社労士の視点|採用管理も労務管理の一部
社労士の視点
労務管理は入社日から始まるのではありません。求人票の記載、面接時の説明、内定通知、労働条件通知は一続きであり、採用段階での説明と入社後の制度が食い違えば、早期離職や労使トラブルにつながります。
中小企業で特に注意したいのは、採用権限が社長や現場責任者に集中し、その場の判断で内定を出してしまうケースです。「よい人だから早く押さえたい」という判断自体は理解できますが、採用予算、配属、労働条件、既存社員との処遇差を確認しないまま内定を出すと、後から条件変更や取消しを検討せざるを得なくなります。
02採用市場
有効求人倍率1.18倍、大阪は0.95倍―「人手不足だから採れない」は本当なのか?
最新の求人市場
厚生労働省が8月28日に公表した2026年7月の一般職業紹介状況では、全国の有効求人倍率は1.18倍で前月と同水準、新規求人倍率は2.10倍で前月から0.06ポイント低下しました。正社員有効求人倍率は1.00倍です。
大阪0.95倍をどう読むか
就業地別の都道府県別有効求人倍率は、最高が福井県・山梨県の1.69倍、最低が大阪府の0.95倍でした。大阪では、単純化すれば求職者100人に対して求人が95人分程度ある状態です。それでも「募集しても誰も来ない」という会社はあります。
採用できない原因を分解する
地域・職種の相場より低くないか
求職者の生活と合う設定か
日数・曜日・取得実態が伝わるか
入社後の姿を具体的に想像できるか
資格や経験を絞りすぎていないか
会社の魅力が求職者目線で書かれているか
応募から連絡・面接・内定まで遅くないか
会社が確認すべき求人条件
社労士の視点|求人倍率は賃金設計の経営指標
社労士の視点
求人倍率は「採れない理由」を外部環境だけで説明する数字ではなく、自社の採用条件を検証するための経営指標です。倍率が高い地域では条件競争が強くなりますが、倍率が低くても、勤務時間や休日、仕事内容の見せ方が求職者の希望と合わなければ応募は集まりません。
社労士として求人を見る際は、募集給与だけを上げるのではなく、最低賃金、固定残業代の表示、既存社員との賃金差、所定労働時間、年間休日、社会保険、試用期間中の条件まで一体で確認します。採用時だけ高い給与を提示すると、入社後に既存社員との逆転や圧縮が起きるためです。
公式一次情報:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)」
03賃金・採用
名目賃金4.0%増、実質賃金もプラス―会社は「給料が上がっている」をどう読むべきか
2026年6月の賃金はどう動いたか
厚生労働省の毎月勤労統計確報によると、事業所規模5人以上の1人当たり現金給与総額は53万4,823円で前年同月比4.0%増。所定内給与は27万9,511円で3.5%増、実質賃金は2.2%増でした。パートタイム労働者の時間当たり所定内給与は1,446円で4.4%増です。
「平均53万円」に惑わされない
パート時給1,446円が意味すること
全国平均であり業種・地域差はありますが、「最低賃金より少し高ければ採用できる」とは限らないことを示す材料です。募集時給を上げる場合は、新規採用者だけでなく既存社員の賃金との関係も確認しなければなりません。
採用賃金上昇で起こる「賃金圧縮」
| 役割 | 見直し前 | 新人時給を上げた後 | 起こり得ること |
|---|---|---|---|
| 新人 | 1,250円 | 1,400円 | 採用競争力は上がる |
| 3年勤務 | 1,300円 | 1,400円 | 経験による差が消える |
| リーダー | 1,400円 | 1,450円 | 責任との釣合いに不満が出やすい |
社労士の視点|賃上げには「理由」が必要
社労士の視点
賃上げで最も重要なのは、金額そのものだけでなく「なぜその差があるのか」を会社が説明できることです。経験、技能、資格、担当業務、責任、部下育成など、賃金差の根拠が曖昧なまま一律に上げると、短期的には喜ばれても、数年後に昇給の基準が分からなくなります。
また、最低賃金対応、採用時給の引上げ、既存社員の定期昇給を別々に行うと、勤続年数や役割による差が急速に縮まります。会社としては「採用できる金額」と「社内で納得される金額」の両方を満たす賃金表が必要です。
公式一次情報:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和8年6月分結果確報」
04災害・BCP
地震で会社を休業したら給料は必要?―「災害だから休業手当不要」とは限らない
熊本地震に伴う雇用・労働特例
厚生労働省は、2026年熊本地震を受け、雇用保険や雇用調整助成金などの特例措置を公表しました。雇用調整助成金では、一定の場合に事業所設置後1年未満でも対象とすること、計画届の事後提出を可能とすること、熊本県内の事業所について残業相殺ルールを撤廃することなどが示されています。対象は原則、2026年7月28日から2027年1月27日までに開始した休業等です。
労働基準法26条と休業手当
労働基準法26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、会社は平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。一方、天災事変等の不可抗力であれば、使用者の責に帰すべき事由に当たらない場合があります。
「不可抗力」と判断される条件
同じ災害でも会社によって結論が違う
工場自体が倒壊して操業不能になった場合と、交通に多少の影響が出たため念のため長期間閉めた場合とでは、結論が同じとは限りません。代替輸送、テレワーク、別事業所勤務など、会社が休業を避ける努力をしたかも検討材料になります。
「休業手当」と「雇用調整助成金」は別制度
| 項目 | 休業手当 | 雇用調整助成金 |
|---|---|---|
| 性質 | 労働基準法上の会社の支払義務 | 雇用維持を支援する助成制度 |
| 主な判断 | 使用者の責に帰すべき休業か | 支給要件を満たす休業等か |
| 注意点 | 義務の有無と助成対象になるかは、必ずしも一致しません。 | |
社労士の視点|BCPには「人事労務BCP」が必要
出勤できない社員をどう扱うか
誰に・どの業務で認めるか
誰が判断し、どう周知するか
休業時の賃金・手当をどうするか
本人の意思をどう確認するか
担当者が動けない場合の代替手段
安否確認と連絡網の整備
社労士の視点
BCPというと、非常食、避難場所、データバックアップを想定しがちです。しかし実際の災害時には、「出勤できない社員を欠勤扱いにするのか」「会社判断で休業した日の給与はどうするのか」「有給休暇へ振り替えてよいのか」といった人事労務上の判断が同時に発生します。
休業手当の要否は、災害が起きたという事実だけで決まらず、休業を回避するために会社がどこまで対応できたかも関係します。だからこそ、災害後に個別判断を始めるのではなく、代替勤務、テレワーク、別事業所勤務、給与計算の代行体制まで平時に検討しておく必要があります。
公式一次情報:厚生労働省「令和8年熊本地震に関する雇用・労働の特例措置」 / 雇用調整助成金の特例
05海外・DX
視覚障害のある社員が社内システムを使えない―DXと合理的配慮
米国で何が起きたのか
米国EEOC(雇用機会均等委員会)は8月28日、American Airlinesが障害者差別訴訟について20万ドルを支払うことで和解したと公表しました。
EEOCの訴えによると、対象社員は視覚障害を発症し、社内のコンピューターシステムを利用するためスクリーンリーダーの使用などを求めました。EEOCは、会社が必要な対応を十分に進めず、本人を約4年間の無給休職状態に置いた後に解雇したと主張していました。
なぜ日本企業にも関係するのか
日本でも勤怠管理、給与明細、年末調整、休暇申請、研修、人事評価のWeb化が進んでいます。DXが進むほど、「そのシステムを利用できない社員がいたらどうするか」が新たな労務課題になります。
日本でも合理的配慮は義務
日本では障害者雇用促進法により、雇用分野における障害者差別が禁止され、事業主には合理的配慮の提供が義務付けられています。ただし、事業主に過重な負担となる場合は除かれます。必要な配慮は、本人との対話を通じて個別に検討することが重要です。
これから考えたい「デジタル合理的配慮」
読み上げソフトで内容を確認できるか
キーボードだけでも操作できるか
動画に字幕・文字情報があるか
字幕等の情報保障ができるか
代替手段や時間延長を検討できるか
社労士の視点|DXは「誰でも使えるか」まで考える
社労士の視点
合理的配慮は、本人から要望が出た後に会社が一方的に可否を決める手続ではありません。本人がどこで困っているかを確認し、業務上必要な機能、代替手段、会社の負担を対話しながら検討するプロセスです。システムを導入した後で対応するほど、改修費や現場負担は大きくなります。
今後は、机や勤務時間といった物理的・時間的な配慮に加え、勤怠、給与、研修、人事評価、オンライン会議などへのアクセスを含む「デジタル合理的配慮」が重要になります。DXの対象業務に、障害のある社員が参加できるかまで見る必要があります。
公式一次情報:U.S. EEOC(英語) / 厚生労働省「雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮」
金融庁が比較推奨販売ルールを正式公表―「募集マニュアル」だけ変えればよいのか?
金融庁が何を公表したのか
金融庁は8月28日、令和7年保険業法改正に伴う内閣府令および「保険会社向けの総合的な監督指針」等の改正内容とパブリックコメント結果を公表しました。パブリックコメントには133の個人・団体から759件の意見が寄せられています。改正の中心の一つが、乗合代理店における比較説明・推奨販売の適正化です。
「2028年だからまだ先」ではない
規程を作るだけでなく、実際に比較推奨販売の適切性が確保される仕組みへ落とし込むには時間がかかります。教育、記録、確認、評価まで含め、段階的に準備する必要があります。
問題は「募集人が実際に説明できるか」
本社が規程やチェックシートを作り、研修を1回実施しても、募集人本人が顧客の前で適切に運用できなければ体制は機能しません。
「売上を上げろ」と「顧客本位」は矛盾していないか
パブリックコメントでは、代理店手数料が売上高、前年対比、規模等と連動する仕組みと比較推奨販売の関係を懸念する意見も示されました。ただし、これは提出者から寄せられた意見です。金融庁が売上連動型の人事評価を一律に禁止したということではありません。
募集人の人事評価制度まで考える
売上だけを高く評価しながら、研修では「顧客の利益を最優先」と伝えている場合、社員は迷います。売上、継続率、苦情、事務品質、意向把握、コンプライアンス、顧客対応、教育履修など、会社がどの行動を評価するのかを整理する必要があります。これは金融庁が特定の評価項目を義務付けたという意味ではなく、体制整備を実効的にするための経営・人事上の論点です。
代理店経営者が今から確認したいこと
社労士の視点|保険業法と人事制度をつなぐ
社労士の視点
保険代理店の体制整備で最も危険なのは、「規程は正しいが、社員が評価される行動は別」という状態です。比較推奨販売を丁寧に行うよう研修しても、人事評価が売上と契約件数だけで決まるなら、社員は時間をかけた説明より短期成果を優先しやすくなります。
金融庁対応をコンプライアンス部門、人事評価を総務部門、営業目標を営業部門と分断せず、会社が募集人へ求める行動を一つの方針としてつなぐ必要があります。保険業法上の体制を実際に動かすのは、教育、管理職の指導、評価、給与、記録という人事の仕組みです。
今週、経営者が確認したいこと
今週のまとめ|「制度がある」から「制度が機能する」会社へ
今週の6つのニュースは、一見すると別々の話題です。しかし人事労務の視点から見ると、すべて会社が決めた仕組みと、実際の運用が一致しているかという問題につながります。
内定通知を出しておきながら簡単に取り消す。求人給与を上げながら既存社員の給与はそのまま。災害対応規程はあるのに、休業時の給与を誰も知らない。DXを進めた結果、一部の社員がシステムを使えない。顧客本位を掲げながら、社員評価は売上だけ。規程が立派でも、社員がどう行動するかまで設計されていなければ制度は機能しません。
※本記事は2026年8月30日時点の公表資料をもとに、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事案は、具体的な事情や最新の法令・行政資料を確認のうえ、専門家へご相談ください。











