WEEKLY HR NEWS|2026.08.17–08.23
今週の人事労務5大ニュース
+保険代理店の人事労務
Dreamin’ 社労士事務所
人事労務に関する制度や行政の動きは、毎週のように更新されています。
しかし、経営者や人事担当者にとって本当に重要なのは、ニュースを知ることそのものではなく、「自社に関係するのか」「法律上どこがポイントなのか」「会社として何を確認・変更すべきなのか」まで理解することです。
そこで今回は、2026年8月17日(月)〜23日(日)の動きから、企業実務への影響が大きい人事労務ニュースを5つ厳選し、社労士の視点から解説します。
さらに、Dreamin’社労士事務所が専門分野として取り組む「保険代理店の人事労務」の視点から、保険代理店経営者が確認したい独自ニュースを1本お届けします。
WEEKLY DIGEST
今週の1分ウォッチ
9月1日から時間外労働の監督指導を見直し
「45時間を超えたか」だけでなく、36協定に定めた健康・福祉確保措置が実際に機能しているかが重要になります。
賃金不払事案は年間22,605件
固定残業代、営業手当、歩合給、残業時間の端数処理など、給与計算より前の「制度設計」を点検したいところです。
9月は職場の健康診断実施強化月間
健康診断は受診して終わりではありません。結果保存、医師の意見聴取、就業上の措置までが会社の健康管理です。
専門家の伴走支援と10月1日の義務化
無料の専門家派遣が案内されました。10月1日からはカスハラ・求職者等セクハラ対策も事業主の義務になります。
熊本地震に伴う雇用調整助成金の特例
災害時は「休業手当を支払うか」と「助成金の対象になるか」を混同せず、順序立てて判断することが重要です。
SPECIAL|保険代理店の人事労務
募集人の「見えない労働時間」、固定残業代+歩合給、10月1日のカスハラ対策を点検します。
9月1日から時間外労働に関する監督指導を見直し
厚生労働省は8月19日、2026年9月1日から、全国の働き方改革推進支援センターと労働基準監督署における、時間外労働等に関する相談・支援・監督指導の取扱いを見直すと発表しました。
働き方改革推進支援センターには36協定や特別条項等に関する専門相談窓口を設け、労基署とのチームによる訪問支援も行います。
監督指導については、時間外・休日労働時間数だけに着目して月45時間以内への削減を求める一律の指導を見直し、各事業場が36協定で定めた「健康及び福祉を確保するための措置」の実施状況を重点的に確認する方針です。
ここを誤解しないでください
今回の見直しは、「月45時間を超えて残業させやすくなった」「時間外労働の上限規制が緩和された」という意味ではありません。
過重労働による健康障害のおそれが高い場合には、引き続き必要な指導が行われます。
時間外労働の上限規制は変わりません
時間外労働は、原則として月45時間・年360時間以内です。臨時的な特別の事情があり、特別条項を設けた場合にも、次の上限があります。
- ✓時間外労働は年720時間以内
- ✓時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満
- ✓時間外労働と休日労働の合計は2〜6か月平均80時間以内
- ✓月45時間を超えられるのは年6か月まで
「健康・福祉確保措置」とは?
特別条項付き36協定では、限度時間を超えて働く労働者の健康・福祉を確保する措置として、次のような項目から内容を定めます。
深夜業の回数制限
勤務間インターバル
代償休日・特別休暇
健康診断
連続休暇
相談窓口
配置転換
産業医等による助言・保健指導
社労士の視点
36協定は「提出書類」ではなく「運用ルール」
36協定を毎年届け出ていても、そこに記載した健康確保措置を実際には行っていなければ、協定と実態が一致していないことになります。
特に、「特別条項を付けているが、どの社員に、いつ、どの手続で適用したのか分からない」という会社は要注意です。
36協定の内容
↓
実際の勤怠・月45時間超の把握
↓
特別条項を適用する手続
↓
健康・福祉確保措置の実施
↓
実施記録の保存
今週の実務チェック
- 現在の36協定をすぐ取り出せるか
- 有効期限が切れていないか
- 月45時間を超えた社員を把握しているか
- 特別条項に定めた手続を実際に行っているか
- どの健康・福祉確保措置を選択したか説明できるか
- 措置を実施し、その記録を残しているか
「36協定を出しているから大丈夫」から、「36協定どおりに会社を運営しているか」へ。今回の見直しを、運用を再点検するきっかけにしたいところです。
厚生労働省の公表ページを見る
賃金不払事案は年間22,605件
「給与計算」より前の制度設計を確認
厚生労働省は8月21日、2025年に全国の労働基準監督署が取り扱った賃金不払事案の監督指導結果を公表しました。
このうち、監督署の指導により2025年中に使用者が賃金を支払い、解決扱いとなったものは21,731件、96.1%でした。なお、この統計には一部のみ支払われた事案も含まれます。
社労士の視点
怖いのは「払っていない会社」だけではありません
中小企業で多いのは、会社としては「きちんと払っているつもり」でも、労働時間の集計方法や賃金制度の設計に誤りがあり、法律上は不足しているケースです。
① 固定残業代
固定残業代そのものが直ちに違法というわけではありません。しかし、通常の賃金部分と固定残業代部分を明確に区分し、法定計算額が固定額を上回る場合には差額を追加支給する必要があります。
「営業手当に残業代も入っている」という曖昧な説明だけで運用している会社は、雇用契約書、就業規則・賃金規程、給与明細の表示を確認してください。
② 残業時間の端数処理
「毎日15分未満を切り捨てる」「30分未満は残業として計上しない」といった恒常的な処理は問題になります。日々の労働時間は1分単位で把握するのが原則です。
一方、1か月分の時間外労働等を集計した後の1時間未満の端数について、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる処理は認められています。毎日の切捨てと、月次集計後の端数処理は別問題です。
③ 歩合給・インセンティブにも割増賃金が必要
歩合給だからといって、時間外割増賃金が不要になるわけではありません。歩合給部分は、原則として「その期間の歩合給額 ÷ その期間の総労働時間」で1時間当たりの賃金額を算出します。
時間外労働については、通常賃金の1.0部分が歩合給本体に含まれているため、歩合給部分に対する割増分は原則0.25以上となります。深夜労働や法定休日労働は別の割増率を確認します。
給与計算ソフトが正しくても、給与が正しいとは限りません
給与ソフトは、入力された条件に基づいて正確に計算します。しかし、次の前提が間違っていれば、計算結果も正しくなりません。
- 労働時間の集計方法
- 固定残業代の設計
- 割増賃金の基礎に含める手当
- 管理監督者の範囲
- 歩合給の計算方法
今週の実務チェック
- 基本給と固定残業代が明確に区分されているか
- 固定額を超えた分を追加支給しているか
- 営業手当を根拠なく「残業代扱い」していないか
- 毎日の残業を15分・30分単位で切り捨てていないか
- 歩合給社員の割増賃金を正しく計算しているか
- 役職名だけで管理監督者扱いしていないか
未払残業代対策とは、単に残業代を支払うことではありません。賃金制度・勤怠制度・雇用契約・給与明細を一致させることが重要です。
厚生労働省の公表ページを見る
9月は「職場の健康診断実施強化月間」
受診させて終わりではありません
厚生労働省は8月21日、毎年9月を「職場の健康診断実施強化月間」と位置付け、一般健康診断や事後措置等の実施を重点的に呼びかけると発表しました。
重点事項には、一般健康診断の実施、医師からの意見聴取と事後措置、結果の記録・保存、労基署への報告、保健指導、ストレスチェック、治療と仕事の両立支援などが含まれます。
社労士の視点
健康診断には「その後」の法的手続があります
会社では「毎年、健康診断を受けてもらっている」というところまでは比較的できています。重要なのは、その結果を受け取った後の対応です。
健康診断後に会社が確認すること
- 健康診断個人票を作成し、原則5年間保存する
- 異常所見がある労働者について、原則3か月以内に医師の意見を聴く
- 医師の意見を踏まえ、就業場所の変更、作業転換、労働時間の短縮、深夜業の回数減少などを検討する
- 常時50人以上の労働者を使用する事業場では、定期健康診断結果を所轄労基署へ報告する
小さな会社ほど「結果を受け取って終了」になりやすい
社員数10人、20人程度の会社でも、健康診断そのものの義務がなくなるわけではありません。「50人未満だから何もしなくてよい」のではなく、50人という数字は産業医選任や一部の報告義務などの基準として出てくる数字です。
対象者・受診状況を確認
↓
結果を適切に記録・保存
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有所見者を抽出
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医師の意見聴取
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必要な就業上の措置・記録
健康診断は福利厚生ではなく、会社の安全配慮・健康管理の一部です。
厚生労働省の公表ページを見る
ハラスメント事案への専門家伴走支援
10月1日の新たな義務化にも備える
厚生労働省は8月19日の「人事労務マガジン特集第247号」で、ハラスメント事案解決のための専門家派遣を案内しました。
令和8年度事業では、企業の労務管理に精通する専門家(社会保険労務士)が無料で派遣され、全4回を基本に、現状・課題の整理、事実確認方法、被害者への配慮、行為者への措置、再発防止、フォローアップまで助言します。オンライン対応も可能です。
社労士の視点
ハラスメント対応で一番危険なのは「最初の対応」
相談を受けた会社が「そんなつもりではなかったと思う」「本人同士で話し合って」「もう少し様子を見よう」と処理すると、その後の紛争や二次被害が大きくなることがあります。
相談を受けた直後の5つの基本
- 1相談内容を記録する
日時、場所、発言、関係者、証拠、相談者が求めていることを整理します。 - 2安全とプライバシーを確保する
相談や事実確認への協力を理由とする不利益取扱いが起きないよう管理します。 - 3相談者と行為者を最初から対面させない
事実確認が難しくなったり、相談者に二次被害が生じたりするおそれがあります。 - 4事実確認とハラスメント認定を混同しない
まず事実を集め、その後に就業環境への影響や法的・社内基準に照らして評価します。 - 5処分は就業規則との整合性を確認する
懲戒根拠、行為の程度、過去事例との均衡などを確認します。
2026年10月1日施行
カスハラ・求職者等セクハラ対策が義務化
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策と求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策について、事業主が雇用管理上必要な措置を講じることが義務になります。
ただし、顧客からの苦情すべてがカスハラになるわけではありません。正当な苦情・申入れと、社会通念上許容される範囲を超えた言動を区別し、会社としての対応基準を作る必要があります。
9月中に確認したいこと
- カスハラ対応方針と社内周知
- 相談窓口と上司へのエスカレーション
- 顧客対応を打ち切る判断基準
- 暴言・脅迫・長時間拘束等の記録方法
- 被害社員への配慮とケア
- 採用担当者等への求職者等セクハラ教育
厚生労働省の掲載ページを見る
参考:令和8年度「ハラスメント事案解決のための伴走型支援」特設サイト
参考:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
熊本地震に伴う雇用調整助成金の特例
「休業手当」とは分けて考える
厚生労働省は、令和8年熊本地震に伴う経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主について、雇用調整助成金の特例措置を実施すると発表しました。
全国の事業所を対象とする主な特例は次のとおりです。
- ✓生産指標の確認期間を3か月から1か月へ短縮
- ✓最近3か月の雇用量が対前年比で増加していても対象になり得る
- ✓地震発生時に事業所設置後1年未満でも対象になり得る
- ✓計画届の事後提出を可能とする
熊本県内の事業所には、残業相殺ルールの撤廃などの追加特例があります。対象となるのは、2026年7月28日から2027年1月27日までに開始した休業等です。
社労士の視点
「助成金が出るか」と「休業手当を払うか」は別問題
雇用調整助成金の支給要件と、労働基準法26条に基づく休業手当の支払義務は、同じ判断基準ではありません。
「助成金がもらえないから休業手当も払わなくてよい」「休業手当を払ったから必ず助成金が出る」とは限りません。
災害による直接被害なのか、取引先の停止、物流途絶、需要減少、インフラ停止などの経済上の理由なのかを整理することが重要です。
休業原因を整理
↓
賃金・休業手当の取扱いを判断
↓
雇用維持策を検討
↓
助成金の対象性・申請要件を確認
厚生労働省の公表ページを見る
募集人の労働時間・賃金・カスハラ対策を総点検
今週の一般ニュースのうち、保険代理店経営に特に影響が大きいのは、「募集人の労働時間」「固定残業代+歩合給」「顧客本位と従業員保護」の3点です。
① 募集人の「見えない労働時間」をどう管理していますか?
保険代理店の募集人の仕事は、顧客訪問、オンライン面談、保険会社との打合せ、社内会議、朝礼、商品・コンプライアンス研修、見積作成、申込書処理、事故対応、電話・メール・LINE対応、顧客先間の移動など、細かな業務に分かれています。
「店舗にいる時間」=「労働時間」ではありません
「直行直帰だから」「営業職だから」「本人に任せているから」という理由だけで、会社の労働時間把握義務がなくなるわけではありません。
事業場外みなし労働時間制を安易に使っていないか
営業職だから自動的に事業場外みなし労働時間制を適用できるわけではありません。事業場外で働いていても、会社が具体的に指示・管理し、労働時間を算定できる場合には、「労働時間を算定し難い」とはいえない可能性があります。
スマートフォン、勤怠システム、スケジュール、PCログ、オンライン会議記録、営業活動記録なども踏まえ、「募集人の1日を、会社として何時から何時まで労働時間と把握しているか」を確認してみてください。
② 固定残業代+歩合給+インセンティブは代理店特有の重要論点
例えば、募集人の賃金が「基本給25万円+固定残業代5万円+営業インセンティブ」だったとします。重要なのは、総額30万円以上を支払っていることではありません。
固定残業代5万円は何時間分か
↓
雇用契約書・賃金規程・給与明細で明確か
↓
実際の残業時間と法定額はいくらか
↓
法定額が5万円を超えたら差額を支払っているか
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歩合給部分の割増賃金も計算しているか
営業成績が高く、多額のインセンティブを支払っている募集人についても、「インセンティブに残業代も含まれているだろう」という整理は危険です。歩合給・インセンティブと割増賃金は、それぞれ法的に整理する必要があります。
③ 10月1日までに「顧客本位」と「従業員保護」の両立を
保険代理店では、事故対応、保険金請求、契約内容や保険料への不満、更新時のトラブル、電話での長時間拘束など、募集人や事務スタッフが顧客から強い言動を受ける場面が想定されます。
一方で、保険代理店は顧客本位の業務運営が強く求められる業界です。したがって、「顧客から厳しく言われた=カスハラ」という運用も適切ではありません。
正当な苦情・申入れ
顧客の話を丁寧に聴き、契約・募集・事故対応の内容を確認し、会社として誠実に対応します。
許容範囲を超えた言動
暴言、脅迫、人格否定、過度な長時間拘束、不当な要求などから、会社が従業員を守るルールを整えます。
この両方を実現することが必要です。今後は、「顧客本位」と「従業員保護」をどう両立させるかが、保険代理店における重要な人事労務テーマになります。
今週の保険代理店経営者への1ポイント
「募集人の始業・終業を、会社は何の記録で把握していますか?」
この質問にすぐ答えられなければ、9月1日の監督指導見直しを機に、勤怠と36協定の運用を点検するタイミングです。
ACTION CHECK
今週、経営者に確認してほしい5項目
- 136協定に何と書いてあるか説明できますか?
届出済みかだけでなく、特別条項の手続や健康・福祉確保措置まで確認してください。 - 2固定残業代・営業手当・歩合給の計算根拠を説明できますか?
給与総額ではなく、その内訳、対象時間、差額支給、割増賃金の計算方法が重要です。 - 3健康診断で「有所見」となった社員を、その後どうしていますか?
結果を受け取って終了ではなく、医師の意見聴取と必要な就業上の措置まで確認します。 - 4ハラスメント相談が明日来たら、誰がどう対応しますか?
受付担当者、記録方法、事実確認、報告先、被害者への配慮まで決まっているでしょうか。 - 510月1日のカスハラ対策義務化への準備はできていますか?
顧客対応が多い会社は、9月中に方針、相談窓口、対応基準、記録方法を整えましょう。
WEEKLY SUMMARY
今週のまとめ|人事労務は「書類」から「実効性」へ
今週のニュースに共通するのは、「制度があるか」ではなく「その制度が実際に機能しているか」が問われているという点です。
36協定を提出している。就業規則がある。健康診断を実施している。ハラスメント相談窓口を作っている。固定残業代を導入している。それだけでは、人事労務管理が整っているとは言い切れません。
そして、これは保険代理店経営にもそのまま当てはまります。保険募集管理やコンプライアンスだけでなく、その仕組みを動かす「人」と「組織」の管理ができているか。
労働時間、給与、健康管理、ハラスメント、採用、教育、退職。こうした人事労務管理は、単なるバックオフィス業務ではなく、会社としての品質を支える経営基盤の一つになっていきます。











